根管治療後に再発して抜歯と言われたけど抜かなくてすんだ話 後編

2年前から悪かった奥歯が抜歯の危機に陥り、歯医者さんを駆けずり回り、サードオピニオンまで行ってもどうにも旗色悪く、いよいよ抜歯の覚悟を決めた矢先、思いもかけない人から思いもかけない歯医者さんを紹介してもらい‥。

初めて経験する自由診療の歯科治療、後編です。

前編はこちら。

目次

関西弁の歯科医師、また電話をくれる

関西弁の歯科医師に電話をにもらった翌日の午後、私は麻布十番商店街をとぼとぼ歩いていた。

腫れた歯茎を抱えて、なんでこんなところ歩いているんだろう、と思いながら。

すると、また携帯に昨日と同じ番号がかかってきた。

昨日のミラクルデンチャーの先生だった。出ると、東京国際歯科に電話したかどうかを聞かれた。予約をとってこれから院長先生に診てもらうところです、と答えると、先生はそれはよかったと明るい声で言った。

まさか今日また電話をくれるとは思わなかったが、昨日いきなりの電話をもらってだいぶいきなり電に慣れてきたので、せっかくなので昨日から持っていた確認したかったことを先生に聞いてみた。

「先生は、ミラクルデンチャーの開発者の中川先生ですか?」(まずここから確認である)。

先生は、「そうです」と答えた。文字ではわからないのだが、思いっきり関西弁である(しつこい)。

「どうして自分のもうけにならないことなのに、別の先生を教えてくれたんですか?」

思い切ってそう聞いてみると、ミラクルデンチャーの先生はほんの少し間を置いてこう答えた。

「それが人の道や。」

そして先生はまた、自分の歯が何より大切だと言うこと、東京国際歯科の先生はもうけ主義などではなく、本当に高いお金を払う価値のある治療をしてくれることを教えてくれた。

短い時間だが、昨日から私が聞きたかったことはすべて答えてくれたミラクルデンチャーの先生の中に、やはり昨日の電話の中で私が感じた歯に対する信念のようなものはやはり間違いないと思った。

先生にお礼を言って電話を切って、東京国際歯科に向かった。

抜かなくて大丈夫

クリニックのハロウィンの飾りが普通に怖い。ガチハロウィン。

東京国際歯科は、私が地元で通っている歯科クリニックよりもこじんまりした外観だった。

受付するとわりとすぐ治療台まで案内された。スタッフはみな感じがよく、土地柄か英語を話すスタッフも数人いた。

治療台まで案内してくれた若めの男性スタッフは、見た感じ中国の人っぽかった。

関西弁の歯科医師の言い付けにより、院長先生に診てもらうことが絶対命題だった私は、思わずその男性スタッフに

「院長先生に診てもらえますよね?」と念を押した。

男性スタッフは、

「はい、今から院長先生が来ます。私はただの助手です」と答えた。

おまえじゃねーだろーな的な私の失礼な質問にも特に顔色を変えることなく答えてくれたその男性スタッフにはやや申し訳ない気持ちもあるが、抜歯の危機状態は続いていたので、まだまだ私は冷静に慣れなかったのである。

抜かなくて大丈夫

クリニック内は素敵な北欧風

院長先生はすぐに来てくれた。

物静かで穏やかそうな先生の第一声を今でも覚えている。

「どれくらい切羽詰まってるんですか?」

前日留守電に入れた私の声色とかでスタッフがそのへんも含めて院長に伝えてくれたのだろうか。

その一言で私は、ここは歯を抜かれそうな人が駆け込んでくるところなのかな、と認識した。

ワード文書にまとめたいろんな歯医者行きまくり履歴を一生懸命読んで話す私に、先生はやはり穏やかに一言。

「多忙ですね」

決してバカにするわけではなく、かといってことさら優しい言葉を付け加えることもなかったが、そこ?的な先生の返しは嫌な気持ちになるものではなかった。

面白かったのは、院長先生のめっちゃ頼りになりそう感以外は、随所ですごく頼りなく感じたことである。

面白がっている場合ではないのだが、CTを撮ることになったら、CTが故障して動かなかったり、私はただの助手です発言の前出の男性スタッフが微妙に気が利かなかったり(感じは悪くないんですけどね)、関西弁医師が「必ず院長に診てもらうんだよ」と言った意味がわかった気がした。

CTは結局撮れなかったのだけど、レントゲンの様子と院長先生の診察と問診で、一番奥の歯は治療する、そしてすでに神経を抜く処置がしてある奥から2番目の歯は折れていないが、レントゲンでは根に病巣があるのでこちらも治療が必要、ただ、すべてをやり直すのではなく、銀歯から細く穴を開けて、病巣のある根だけ処置をするというやり方で治療する、とのこと。

初めて聞く治療法だった。一度神経を抜く治療をして、大きな銀歯を被せた後、また同じ根っこが悪くなったら、その銀歯を取って、また同じ治療をする、それはとても歯に負担をかけるので、再発してからの再治療は抜歯の可能性が高まる、と聞いていた。

そういう治療法ではなく、銀歯は取らずに穴を開けていくつかある根っこのうちの悪いところだけを治療するのだって。と簡単に言うけれど、それものすごく難しくない?そんなことできるんだろうか。

私は、「そういうやり方は初めて聞きました」と院長先生に言った。

「そんなことできるの私だけ」と先生は答えた。

その言葉を聞いて、私はなるほどー!!お願いしよう!!と瞬時に思ったのである。

この数週間図らずもたくさんの歯医者さんに通うことになり、どこでも似たり寄ったりの治療方針を聞いた。同じようなことを言われるということは、どこの歯医者さんもだいたい正しいことを言ってるということだろうから、まあそれはそれで悪いことではないけれど、でも保険診療による治療の限界も感じた。

首都圏に限って言えば、歯医者さんて本当にたくさんある。経営していくためには、たくさんの人に自分のところを選んでもらって、一人一人にそんなに時間はかけていられない。そんな中、時間のかかる神経の治療を時間がかかるからと言って他の患者さんよりも時間をかけるということはできないのだということを色々歯医者さんを回ったり、やたらとネットで見たりして思ったことだった。

で、ここではどこの歯医者さんでもやっていない時間のかかりそうな治療をしてくれるのだ。関西弁の先生が紹介してくれただけのことはあるのかも、と思った。

治療方針を聞いてから実際に治療してくれるまでも早くて、金曜日に最初に診てもらってから週明けの月曜日には治療を始めてもらえた。

神経の治療は1年前に地元の歯科クリニックで経験したことなので、だいたいどんな治療かは分かっていたけれど、けっこう痛かった記憶だったが、ここではそんなにつらい治療ではなかった。

治療は丁寧だった。1回の治療時間は1時間以上はかかって、痛みはほとんどなかった。そして通う回数も3、4回と少なめだった。

ラバーダムを装着されているときに唾液が口の中に溜まって大変なのと、長い時間足よりも頭の方が低い状態にされるのが大変だったが、それも時間をかけて治療してもらっているゆえのことでもあった。

というわけで、治療は終わり、抜歯はされなかった。

抜かなければいけない歯はない

今回治療してもらった奥歯2本以外にも、神経から悪くなっていそうな歯はまだ何本もあると思っている。先生に治療の合間に今回の歯以外のことも相談した。先生は私の歯のレントゲン画像を診ながら、この歯この部分が怪しくて、画像がこうだからおそらく今こんな状態だろうといったようなことを説明してくれた。画像を見ただけなのに、とても詳しく各歯の状況を説明してくれたことは、今までの歯医者さんでは経験のないことだった。

今回の治療は本当によかったけれど、治療費はかなり高額なので、そのほかの歯も悪いからと言ってすぐ治療してもらうわけにもいかない。

先生から指摘のあった歯が何本もあるのを知って、また不安な気持ちが沸き起こってきた私は、聞いた。

「私、そのうちこれらの歯全部抜けちゃうんでしょうか」

先生は答えた。「抜けるにはあと50年くらいかかるね」

続けて先生は、「抜かなきゃいけない歯はないんです。抜く先生がいるだけ。その先生が治療できないと、抜くんです」

その言葉は、歯科の現状を的確に表現しているような気がした。

治療には医療保険という制約がある。保険で点数のつく範囲での治療だと、治療の技術や薬剤、レントゲンやCTの回数などが先生の裁量では行えない。

神経の治療は、おそらくそのような保険診療の制約の中では、予後が良くなる丁寧な治療がしにくいのではないか。

あまりに悪くなった歯は、ちゃんと治療してもらえないんだ。治療してもらおうと思ったら、大学病院で長時間待ったり、自由診療で高額な治療費がかかったりするんだ。

それが嫌なら、抜歯ということにもなりかねない。

小さい頃の虫歯が歳をとってこんなおそろしい結果につながるんだなあ。

歯の健康って、めちゃくちゃ大切。

歯医者さんを回りまくって、歯にまつわる動画を見まくって、高額の治療費を払って、たどり着いた実に当たり前の結論でした。

紹介してくれた関西弁医師へのお礼

2ヶ月ほど通って、悪かった2本の奥歯はすっかりよくなった。歯茎の腫れもなくなった。

治療費はすごく高かったけれど、治療のあちこちで、先生の技術の高さや丁寧さを感じて、すっかり東京国際歯科の院長先生のファンになってしまったのであった。今後もこのクリニックに通うことにしようとすっかり思うようになった。

さて、東京国際歯科を紹介してくれた、ミラクルデンチャー開発者の中川先生。
ネットで問い合わせただけの私に、わざわざ電話をくれてこのクリニックを紹介してくれたこの関西弁の先生に何かお礼がしたいな、と思っていた。

で、お礼はやはりこれかな、と思っていたことを、私は、今回の治療の最後の日に意を決して行った。

最後の治療の日に、私は治療してくれた院長先生に慣れないエセ関西弁を披露したのだった。

「先生、先生を紹介してくれたミラクルデンチャーの中川先生は『私も、あの先生と1度は話してみたいんや』とおっしゃてました!」

院長先生も忙しいと思うので、あまり反応は見ずにとにかく私は続けた。

「『でも私とあの先生は、住む世界が違うんや。私がロケットを作る人間やったとしたら、あの先生はロケットに乗る人なんや』っておっしゃってました!!」

ははは、なんだそりゃ、と優しく笑ってくれた院長先生にお礼を言って、無事治療を終えた私は去ったのだった。

その後院長先生が、あの関西弁の先生に電話でもしてくれたらいいな、と思いながら。

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