シカが全国的に増えて、日本の多くの山とか湿原とか高原などで貴重な植物などを食べてしまうという被害を聞いたことがあり、日本の生態系に大きなインパクトを与えているということに元々興味がありました。イノシシも同じくオオカミなどの天敵のいない状況で、急速な増加による生態系や農作物への被害をもたらしているということで、こんなイベントがあったので参加してきました。
千葉県館山市で、駆除されたイノシシを解体・加工調理して肉として販売するジビエ事業、その他様々な地域振興事業をされている沖さんが、館山市のイノシシの被害の現状やイノシシの生態や問題点などをお話してくださいました。
毎年1.6倍で増えてゆく!
館山市も20年ほど前まではイノシシを見ることはなかったのだそうです。
それが、高い繁殖力でどんどん増えてしまい、人間生活に様々な被害をもたらしています。
沖さんから聞いたイノシシの生態の話は、知らないことばかりでした。
イノシシは地面を掘って食べ物を探す動物なので、畑を掘り起こして作物をだめにしてしまったり、道路を掘り起こしてアスファルトが崩れて車が通れなくなってしまったり、また、罠から外れたイノシシが人を襲うと命に関わる大怪我を負うという事故もあるそうです。
これだけ増えてしまう理由のひとつとして、イノシシの旺盛な繁殖力があります。
イノシシは毎年1.6倍の数増えていくのだそう。銀行預金だったらいいですけど、こんな複利はいやですね。
たとえ最初に目撃された個体が数頭だったとしても、10年後20年後には何百頭、何千頭になってしまうのです。
また、これだけ大きな動物なので、やっぱりなかなか賢いようです。
畑で、イノシシ避けに強い電流の走る電線で囲うという方法があるそうです。もしその電線に触れるととても痛いので、触れてしまったイノシシは近づかないようになります。これは目的通りなのでよいのですが、この電線の仕組みは価格が高いので、このイノシシ避けの見た目は同じの、電線ではないただのロープで畑を囲ったとします。
そうすると、電線のイノシシ避けを学習したイノシシはロープのイノシシ避けにも近づかないし、子どものイノシシにも近づかないように教えるそうなのですが、電線の方を知らないイノシシはロープのイノシシ避けも平気です。
特に子どものイノシシは小さいので、ロープの下から普通に顔を畑に入れて作物を食べてしまいます。
ここまででも困るのですが、ロープのイノシシ避けが平気だと学習した子どものイノシシは、本物の電流のイノシシ避けも怖がらないので、結局本物のイノシシ避けも無意味化してしまうそうなのです。
また、イノシシのメスは子どもを生むと、子どもと一緒に生活している間は次の妊娠はしないのですが、子どもだけ罠にかかってお母さんと引き離されてしまうと、そのメスのイノシシはまた発情して妊娠できるようになってしまうので、ただ捕まえればいいというものでもないそうです。
オオカミという天敵がいない状況、高齢化による狩猟者の減少、人口減少による耕作放棄地のような土地が増えて、生息適地が増加する、など複合的な要因で、頭数が増えて全国的な問題になっているイノシシ(シカもですが)、このようなたくましい生態や繁殖力があれば、確かに増えるよなあと納得しました。
そして、てっきり自然豊かなところに生息するのかと思っていましたが、とうとうさいたま市でも目撃情報が寄せられたのです。普通に大きな国道で、家族と思われる4頭だそうです。
1.6倍法則からすれば、なんの対策もないさいたま市、4頭という数でも全然少なくない、というか館山市やイノシシ被害で困っている市町村と同じ道をたどる可能性大とのこと…。
ジビエ堪能
そんなたくましいイノシシさん。どんなお味なのか。沖さんが自社で加工処理しているお肉を持ってきてくださり、ピザにトッピング、ローストイノシシ(!)を切る、などの最後の調理工程をイベント参加者もしながら、みんなで食べました。
こちら、イノシシの挽き肉。しっかりした歯ごたえ。
その挽き肉をトッピングしたピザ。
ローストイノシシ!うまそー!!
切るとこんな感じ。脂が乗っていて、美味しかったです!脂がいっぱいなのですが、くどくない、脂っぽくないんです。自由に走り回って、めっちゃ運動しているからかしら??
全然臭くもないし、まあ豚と同じ仲間というか、ほぼ豚だから当然と言えば当然?
でもスーパーで売っている豚さんと違うのは、肉の質がいつも同じとは限らないということ。罠にかかったあと絶命するまでに暴れたりするとか、殺してから解体するまでの保存状況とかでも変わるし、またメスなのかオスなのか、いつどんな個体が捕まるかも分からないので、牛や豚のように大規模に売ることはできません。
イノシシが教えてくれていること
美味しくいただいて楽しい気持ちになっていたのですが、参加者の方でとても印象に残った感想を言われた方がいました。
この日本中のイノシシやシカの増加による被害は、起こるべくして起こっている。天敵がいなくて、狩猟ができる人間も高齢化してどんどんやめてしまう、それなのに、私達は穀物を輸入して、食べるために牛や豚を育てている。山には食べられる動物がどんどん増えているというのに。この不自然さをみなが知るべきだ。
と言ったようなことだったと思います。
その方の発言を聞いて、イノシシとシカの増加ということが日本社会の歪みの表現なのだということを思い出させてくれて、はっとしました。
高齢化や過疎化、人口減少などの要因で、耕作放棄地や空き地など、人の手が入らずむしろ緑が増えている場所も増えている。そんな間隙をついて、イノシシやシカは自然の豊かなところにはもちろんのこと、人が住む場所のすぐ近くでも繁殖して、軋轢を生んでいる。
それは、ある意味での自然の再生なのかもしれないけれど、高度経済成長以前の日本の里山の風景とは異質の何か。今まで私達が直面したことのないフェーズに、日本の自然はとっくにはいっているのかもしれない。
新たな状況に適応し、自分を変えていくことがやっぱり必要なんだと、イノシシの話を聞いて改めて感じたのでした。