国立科学博物館附属教育園のイベントに行ってきた

国立科学博物館附属教育園が好きです。国立科学博物館は上野にあるけれど、こちらは白金台にあって、貴重な植物や生物が今も生息している広大な森。

上野のかはくも大好きだけど、こちらも大好き

こちらでざまざまなイベントがやっているのをたまにHPでチェックするのだが、

「都市の緑をみんなで考える勉強会 第2回」というのがあるということを知り、申し込んだ。

タイトルを見て面白そう!聞きたい!と思ったのだけど、なぜそう思うのか改めて考えてみた。

私は、ボランティアで近くの埼玉県内の雑木林の整備に参加させてもらったりしているけど、それは比較的規模の大きい自然であって、そういう規模の大きい自然を保全することはとても大切だと思うのだけれど、普通に街の中にある街路樹だったり何の変哲もない公園の中の木だったり、それらだって実はとても貴重な自然なのではないかと感じることが多い。

住んでいるマンションの下は街路樹くらいしか緑はないけれど、それでもたまに蝶が飛んでいたり、マンションの駐輪場にはカナブンの死骸が落ちていたり、意外に虫がいたりする。道路を隔てたところに公園があるのだが、そこから飛んでくるのではないかと思っている。大した大きさの公園ではないけれど、それでも比較的大きな木が生えているし、花も咲くし、池もある。

あんなに限られた場所だけれど、人間が自分たちのために作った場所だけれど、それでも人間以外の生き物も住んでるっぽい。

公園の緑。人間以外の生き物にとっても重要な場所では。

感覚的にそんな気持ちがあるので、この勉強会のタイトルを見てびびっと来て行ってみた。

目次

今、なぜ都市の緑か?

それで、講演の内容。お話をしてくれた内田先生という方の研究内容は、東大のHPを見ると
「生物多様性の保全と生態系サービスの維持機構の解明に関する研究を推進しています。」とあった。

先生は冒頭で、日本の都市の緑は現在も減少し続けていること、現在の日本の都市の緑の成り立ちとして、戦後に計画的に作られたものもあるが、大部分は過去の里地里山が残ったもの、いわば過去からの遺産である、という2つの事実を説明してくれた。

次に、都市の緑の以前の形である里地里山、この里地里山は、人間が関わり管理することでできてきたもので、そこに長い間かけて生態系ができあがってきた、というお話。

人間が長い歴史の中で自然と共存するために行ってきた「管理」は生物にはプラスに働く。

その管理をしなくなり、放棄地になると生物多様性は下がる。

例えば、下草管理をされた雑木林は、管理をしなくなると鬱蒼とした自然状態に戻る。そうするとそれまでいた希少な生物はそうした鬱蒼とした森には住めないのでいなくなってしまう。

また最近ナラ枯れといって、コナラやクヌギにカシノナガキクイムシが入って枯らしてしまうという害が問題になっているが、15年おきに伐採管理している林ではカシナガの被害はほぼないというデータがあるそうだ。

なので、先生は、放棄地になると生物多様性は下がってしまうので、里山などに比べれば多少生物多様性は下がるが、放棄地にするくらいなら、いっそその土地を公園利用にしたほうがいいと言われていた。

私の公園のイメージは、ロンドンとかにあるような、芝生が生えていて噴水があってベンチがあって、もちろん木もあるけど、そのような思いっきり人間都合のバリバリ管理された場所。そんな公園の方が、自然に植物伸び放題の放棄地よりも生物多様性が高いというのを知ってなかなか驚いた。人間の管理ってそこまで生態系に影響を与えていたんだなあ。

生物多様性といえば、日本の里山システムはすごく理にかなっていたのだ、というところまでは知っていたのだけど、ボーボーにしてほっとくくらいなら公園でもいいから管理しようよ。っていう考えが意外だった。

最後に、生態系サービスと都市の緑の話。

現在、世界の54%の人口は都市エリアに居住している。都市エリアは、人間の生存基盤と言っても過言ではない。

生物多様性は人間に様々な生態系機能を生み出す。その生態系機能の中で人間に利益をもたらすものを生態系サービスと言うそうだ。

都市の緑は、多くの生態系サービスを生み出す。だから都市の生物多様性を守るために都市の緑を保全しなければならない。

との結論で講座は締めくくられた。

先生は、里山整備の写真や、屋久島の縄文杉の写真を見せて、緑の保全に掛かる資金がこのような規模の大きい自然生態系に偏っていて、都市の緑に資金が振り向けられない状況を問題であると言われていた。そのような状況を変えるべく、様々なデータを使って、都市の緑の重要性を明らかにする研究をされているとのことだった。

例えば、宇宙からの地表の温度の分布の写真で説明されていた。その写真は東京の写真でかなりピンポイントの場所まで分かる細かいものだったのだが、会場の科博附属自然教育園や井の頭公園など大きな緑地は明らかに地表温度が周りより低く、練馬区とか中野区とかお金があまりない区は緑も少ないので明らかに温度が高くなっていた。

温度が高ければ余計にエネルギーを使って冷やさなければならない。熱中症などの病人も増えるかもしれない。対策にはお金がかかる。

先生はそういう、緑が少ない→生態系サービスを受けられないことでもたらされる直接的な経済的損失を色々明らかにしようとされているようだった。

敵は無関心だ

講座が終わってから、先生と参加者で少しだけ園内の森を散策した。

酷暑の午後、園内を歩いての先生の最初の一言は、

「涼しいでしょう?」

歩けばすぐに分かる。アスファルトの上では耐え難い暑さでも、木々の下は涼しい。

自然の中にいれば、こうして気持ちいい。心が安らぐ。だからこの都市の中の自然を大切にしたい。

本当はそれだけで説明は充分なはずだ。でもそれだけでは行政も企業も動かない。

生態系サービスがもたらす経済的利益。反対に生態系サービスが失われることによる経済的損失。

これらをデータを以て具体的に説明しないと、予算は配分されず都市の緑を充分に保全することができない。

「生物多様性を保全することが私の目的ですが、そう言ってもお金は回ってこない、その研究資金を持ってくるために、都市の緑を守るとこんないいことがあるんですよというプレゼンをして、裏では生物多様性を守ってるんです」と先生は冗談めかして言っていた。

他の人と一緒に森を回りながら、私はなんだかモヤモヤした。そこまで細かく説明しないと都会の自然の大切さが分からないなんて、分からないほうが悪くないか?

データできちんと説明してもらわないと、なんて環境行政の役人が言っているかどうか知らないけれど、そんなもん、行政の首長も企業の役員も、みんなここに連れてきて、分かるだろ、コラって説教してやりたい気持ちになる。

そんなこんなでモヤモヤした気持ちを持ったまま、家に帰って目の前にいた夫に講座で聞いた内容を話すともなく話した。その時の夫の反応。

ふーん。

私は聞いた。「あ、関心ないんだ」夫、「うん」

そっか。なんだかすごく納得した。ほとんどの人は、都会の緑になんて関心がないんだ。関心がない人の関心ひくためにはお金の話しないとだめなんだ。

なるほどね〜。

…東京に住むのは大変だ。(埼玉だけど)

園内は樹齢250年以上の木とかたくさんある
水辺もある。昔は湧水が出ていたらしいけれど、今は周囲の開発でなくなり、井戸水で管理しているそうだ

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