野焼きを見た

1月にクワイ掘り体験をしたときに、主催者の方にこのあたりで今度、野焼きをするんだよと教えてもらいました。

このあたりとは、さいたま市桜区の西、荒川の堤外地と呼ばれる、堤防の中に入った河川側に田んぼが広がる地域です。

1年に1回だけ行われるそうで、見に来ていいよと言ってもらえたので、なかなか間近で見る機会はないだろうということで、見学に行ってきました。

目次

1週間の延期で、今日実施

本当は、1週間前の土曜日に実施する予定だったそうです。広範囲に実施される野焼き。風が強いと実施できないというのは聞いていました。1週間前のその日は風も穏やかそうだったので実施するのだろうな、と私は思っていたのですが、その数日前に雪が降りまだ積雪が残っていたので、雪のために1週間後の今日に延期となりました。

道路の雪は翌日にはほぼ溶けてしまっていたのですっかり雪のことなど忘れていたのですが、雪で延期というのを聞いたときには、風以外でもいろいろな天候条件に影響されるのだなあと、とても納得しました。

朝の8時30分開始、各方面にしっかり確認

さて、野焼きする場所はこんな感じのところ。主にヨシが生えているのを焼くのだそう。

市に許可を取っているそうなので、開始前に消防車が確認にやってきます。

集合場所には20人ほどの農家のみなさん。手にはバーナーを持っている。男性の農家さんばかり、オマエ誰だよ状態の私がいきなりその集団の中に入るのはアウェー感をビシビシ感じて、かなり圧を感じたのですが、勇気を出して「おはようございます」とあいさつしたら、みなさん大変やさしく挨拶を返してくださいました。全然優しかった。よかった泣。

定刻に全員集合と思われるのに、なかなか野焼きは始まりません。代表者と思われる方が携帯で色々なところに電話をしています。かけるたびに、住所を伝えているようです。

事前に様々なところに連絡はしているらしいのですが、開始する直前にも最終的な連絡をしているようです。

すごく慎重に進めているだなあと思いました。すべての行動が珍しくてたまりません。

いよいよ開始。炎、炎、炎!

電話での最終確認が終わり、いよいよ集団が動き始めます。

一歩間違えば大事故につながる野焼き。注意事項を教えてもらいました。

一人では行動しないこと。風下から火をつけること。

みんなについていって、風下に向かいます。100メートルほど歩いて、ふと横を向くと。

バチバチと大きな音を立てながら炎が上がっている!

すごい!!思わず歓声を上げてしまいました。こんなに大きな炎を見るのは生まれて初めてです。炎の中を見ると、ヨシに火がついて一瞬キラキラと輝いて、倒れていきながら炎が上がっていくのです。その様がとても美しくて目を見張りました。

炎はあっという間に上がりますが、燃えるものがなくなればだんだんと消えていきます。風上で燃やしてしまうと、火は風下に広がっていくので、どんどん広がって手がつけられなくなってしまいます。だから風下から焼いていくのだそうです。

みなさんこういう柄のついたバーナーを持っています。

ある程度の広さが焼き終わると、みなさん慣れているので誰ともなく別の場所に移動し、ちょんちょんちょんと火をつけていきます。

瞬く間に火は広がっていくのです。

煙が立ち上り、太陽も暗くなってまるで日食のよう。

燃え残った黒い地面も圧巻です。

何かの拍子で火はかなりの勢いになります。

火災旋風のような状態も初めて体験しました。今日は風はほとんどなかったはず。なのに気がつくと強い風にまかれているような状態になりました。火で上昇気流が巻き起こって風を起こしているようです。竜巻のようなものが見えます。

危険だからこっちに来てーという声の方向に、あわてて移動。何が起こったかよく理解できずにその場を離れましたが。

水のタンクを載せたトラックがゆっくりと、すごい勢いの炎に向かっていきました。

なぜ野焼きをするのか

野焼きをするのは色々な理由があるそうです。

ヨシがたくさん生えていて、そのままにしておくとどんどん植生は遷移してヤブのようになっていってしまうので、燃やすことによって遷移を止める。燃やすことで害虫なども一度リセットできる。などなど。

そもそもこの一体の田んぼを水田として使っていればこんなにヨシは生えてこない。休耕地が多くなってしまったのでヨシがたくさん生えてしまって、刈る人手もないので燃やすという理由もあるのだそうです。

だからずっと昔、この一体でさかんに農業が行われていた頃は、今日のような一面の野焼きというのは行われていなかったそうです。

参加されていた農家さんの一人が野焼きの難しい事情を教えてくださいました。

どんなに各方面に連絡しても、苦情は来るということ。放送で連絡しても回覧板で回しても、そんなこと関係ない、洗濯物が汚れた、ベランダが真っ黒になった、と激怒されることはよくあるのだそうです。直接謝りに行って苦情を行った人の家を掃除したこともあったそうです。

でも、限られた人手でここで田んぼを続けるためには野焼きはどうしても必要なことなのだそうです。

この場所は車のビュンビュンとおる国道のすぐ近くにあるのですが、そんなところにあるのが信じられないくらい昔の里山風景が残っているところで、初めて訪れたときは、「さいたま市にもこんな日本昔話みたいなところがあるのか」ととても驚きました。

原風景のような場所で、今も米作りを続けてくださっている農家さん、休耕地もある中でなんとか続けてくださっている農家さんにはこれからもこの地域を守っていってほしい。

一方で、煙や灰で困る近隣の方の不満は決して軽くあしらってはいけない重要なことだとも思います。

野焼きをしないと農家がやっていけないとか自分には関係ない、と言う人がいるのも無理はない。この風景を残すことの大切さ、自分の住んでいるすぐ近くの場所で食べ物を作ることの大切さを、多くの人が納得できるように説明することは果たしてできるのだろうか、と考えてしまいました。

興味本位で来てみて(すみません)、炎の美しさと迫力に感動していましたが、現状は決して簡単な状況ではないということを知って、自分にはなにができるのだろうかとまたまた無力感も感じてしまいました。

このさいたま市の里山をもっともっと多くの人に知ってもらいたいです。

最後は2つの動画。燃え盛る火と、竜巻のようになっている煙です。

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